悲しい夕食。
「病院」という言葉を口にした私に対し、母は恐ろしい形相で拒絶してきました。
なんとか説得を試みたものの抵抗が激しかったので、とりあえず話を打ち切って夕食に向かうことにしました。
その頃には既に日も沈み、冬の夜の寒さが身に沁みました。
お気に入りだった寿司屋に連れて行っても、母の様子は落ち着くことがなく、周囲に対して過剰なまでにビクビクとしています。
「さっきの話の続きだけど……」
食事をとりながら話しかけた私を、
「シーッ! こんなところで声をかけるヤツがあるか!」と一喝。
食べ始めてから10分も経たないうちに、「家が気になって仕方がない。誰かに火を付けられているから」と言い出し、席を立って店を出て行こうとします。
当然ながら、店員や他のお客さんからの注目を集めることになり、猛烈に恥ずかしかったのを覚えています。
「いい加減にしろ!」
実家に戻ってからがまた大変でした。
荒れた室内を可能な範囲で片付け、お風呂を沸かして両親に先に入るように促すと、「風呂になんか入ったら、おぼれさせられてしまう」と言って、素直には言うことを聞いてくれません。
長く公園にいて身体が冷えていることだし、ゆっくり温まってほしいだけだと言い聞かせ、どうにか母を入浴させた私は、リビングの片隅でシュンとうなだれている父に声をかけました。
「父さん、どういうことかイチから説明してくれないかな」
「すいません……」
「いや、俺は今、謝ってほしいわけじゃなくて、何が起きたかを知りたいんだけど」
「すいません……」
「だから、謝るんじゃなくて、夏に電話で話したときから、現在に至るまでの……」
「すいません……」
「あのな、謝らなくても……」
「すいません……」
「いい加減にしろ!」
気がついたら父を怒鳴りつけていました。そして、その声を聞いた母が、全裸でずぶ濡れの姿でリビングに駆けつけ、「やめてくれ、ヤツらに殺される!」と懇願してきたのです。